夢乃時こと夢楽 楽夢楽見楽の現実逃避。

嫁補正が強い馬鹿が書くものです。 基本短篇話を不定期に更新します

「彼女と時計と人形と」から描く裏面子未来形話 1

 

ここから

 

1.平和な中、また会って。

 

私は、私はとても悔しかった。

魔界から出て、甘えから自分を解放して、自分を磨いてきたというのに。

強くなったって、感じたのに。

なのに、なのに…

 

まさか夢子姉より弱い敵に負けるなんて…

 

悔しくて、もう金輪際会いたくなかったってのに…

どうして

どうして

 

あの時よりものすっごいテンション高いのよー!!!

嫌おうとしたのにこれじゃ無理じゃない!

仕方ない、さきよさんとでも呼ぼう。

 

やはり無理だったか、うん。

 

あとさぁ

 

甘えからまだ解放されない感あるわ、うん。

だって…

ユキ姉いるんだよー!?

 

2.魔界人じゃなくなった私の姉さん

 

ユキ姉が急に、魔界人をやめると言いだした。

私と同じ理由でやめるのかと訊くと、曖昧な返事しか戻ってこなかった。

 

よくわからないけど、誰にも邪魔されない空間で集まれるようになったらしい。

 

オレンジはinterestingって言ってきて、

キクリは優しく、

咲夜はユキ姉を弄り、

対するユキ姉は私を弄り、

藍はツンデレ

夢月は実の姉がいないのもあってふざけて、

フランドールは無邪気さの裏に優しさがあって、

里香は大人しいがユキ姉の先輩で、

橙は便乗でボケて、

紫は胡散臭いお母さんで、

小兎姫は…何とも言えない。

 

そんな感じであったら良かった。

 

戦争も喧嘩もない、ただただ平和な会話。

 

やめる前に、オーケストラなんかやっちゃってさ。

 

でも、マイ姉から聞いたの。

ユキは病弱だから、神綺様からの守護がある。でも、やめちゃった今…重病ですぐ死ぬかもしれないとかなんとか…

 

や、やっぱり湿っぽい話はやめるわ!

 

そんなことより咲夜、最近は来るときはいつも勉強を頑張っているユキ姉と里香のためにレミリアに許可を取ってお菓子と茶葉を持ってくるの。

でも、いつもの仕事で疲れているから、淹れる前に机に座って2人の状況を訊こうとした途端に寝ちゃう。

その寝顔がだらしなくって…よほど疲れているんだな、と感じた。

夢子姉も同じようなものなのかな。

で、その紅茶はと言うと…キクリが淹れちゃう。

キクリ凄いのよ。安物の茶葉でも極上の一級品みたいに仕上げちゃう。

そういうものがあれば、もっともっと美味しく。

きっと、飲む人のことを思って淹れているのでしょうね。

いや、咲夜のも美味しいのよ?

 

それで話を戻すのだけど、たまに咲夜が鼾を掻き始めちゃって…2人は咲夜が寝てる机の上で教え合いながらやってる訳だからとっても迷惑そうなのよ。だからその時は私と夢月で移動させる。

うわぁ、涎出ちゃってるよ…

 

ちょっとかわいい…かも。

 

 

3.彼女の時計の針は回る、命の終わりを告げるため、命の期限を延ばすため。

 

気が付けば、ユキ姉が学校に行く日以外外に出ないようになった。

だから精神年齢が小っちゃい子が気まぐれで来ても外で遊ぶ事は無く、

香霖堂から買ったであろうボードゲームで遊んでいた。

寂しくならないようにとか、そういう類で。

勿論私も混ざるわ。KYと思われたくないからね。

 

でも、問題なのが咲夜である。

 

隙を突けばユキ姉をぺちぺちして、ぽんぽんして、なでなでしてる。

瀟洒はどこ行った。

気が付けば皆ユキ姉を集団でなでなでしてて

その中心でユキ姉が泣いてる。

 

いつもの事である。

 

とは言え、ずっと続くとは限らないとは分かっている。 

 寿命があるのだ。

人間から順に死んでいく。

老いていく。

 

そういえばある日、フランドールが訊いていた。

「皆は、死ぬ時どんな風に死にたい?」

訊いていることは物騒だが、ノリの良い皆は直ぐに考えた。

でもユキ姉はそんなに考えずに笑顔で一言

「皆に看取られて死にたいかなー。ほら、だって私寿命分かってるし」

途中から言葉を遮るようにして里香が口を挿む。

「私は好きな事をやってやりながら死にたいのですー」

覆いかぶさるようにして、小兎姫が言う。

「何か集め終わったら死にたいわ」

きっと小兎姫は妖怪になるまで集め続けるだろう。

「私はユキと一緒に…死ねない!」

「死にたい?なら今すぐスキマ送りに」 

 「やだ!まだ死にたくないよー!」

オレンジと紫…Good job

「『此処が俺の死に場所だ』とか言って死にたいわー」

夢月が呟く。

「死にたくないな」

藍が言う

「藍様といつまでも一緒にいたいから死にたくない」

橙が言ったら藍が橙に「ちぇぇぇぇぇぇぇ」とか言って抱き付く。

すると、暑いと言って橙がそれを遮る。

そんな中、キクリが申し訳なさそうに言う。

「私は死ねないわ。私が最後に残るのよ。」

 

私は…死にたくないかな

終わりはあるけれど、終わりたくないかな

 

フランドールが咲夜に訊く。

すると咲夜は笑って

「そうですね…老いた体にはなりたくないですから…

でもまぁ、死ぬまで一緒ですよ。」

 

彼女の時計は回る。

私の時計も回る。

皆の時計も回る。

 

いつか来る

命の終わりのために

 

 

4.オルゴールが止まった

 

里香が職に就いた頃、ユキ姉の体は日に日に衰弱していくように見えた。

吐血の量も多くなってきた。このまま多くなれば、簡単に死ぬのかしら

ユキ姉の事を姉のように気にかけていた里香は、仕事の休み時間になる度にメールを送ってくる。

何て返すか問うと、「大丈夫、大丈夫よ」としか言わない。

幼い頃は明るいから気にしなかった部分もあったが、明らかに無理をしている事が今になって見て取れる。

無理してるじゃん、と言うのは容易い事。でも、ユキ姉も里香の事を気にしているので、「もうダメ、死にそう」とかネガティブな事は一切言わない。

ユキ姉なら本当に死んでしまいそうだったから。

 

それから毎日来るようになった私に、毎日いるキクリが言った。

「今更だけど…私だったら、この病気の解決策が分かるかと思ったから此処に仲間入りしたのだけど…ごめんなさいね、それが全く分からなかったの。」

突然謝るキクリに私は首を振る。

でも死ぬという事が確定しているから、

だから、

私は何も言えない。

 

ある日、久し振りにリビングで皆が集まった。

最近咲夜がこないなと思ったら、笑顔でフランドールと一緒にオルゴールを持ってきた。

咲夜曰く、「自分で皆の為に作った(`・ω・´)」と。

その時、私は人間をなめない方がいいなと思った。

 

皆が座る机の中心にオルゴールを置いて、発条を巻いて鳴らす。

その前にキクリがお茶を淹れていたらしく、音が鳴ったと共に目の前にお茶が。

何故上半身しか出て無いのに月が当たらずにできたな〜といつもと違う俊敏さを見て思ったが、良く見たら下半身も出ていた。

壊したのか。

それでいいのか。

 

オルゴールのいい音と、いい香りのするお茶。

美味しいし、いい雰囲気。

何故か皆妙に大人しいから、オルゴールの音がよく響く。

そんな感じで小一時間経つと、フランドールとオレンジと橙と夢月が話し出した。

流石に小っちゃい子は聴き飽きるかと思ったが、夢月はそんなに幼くはないだろう。

突っ込みたくなったが、急にオルゴールが止まった。

静寂に包まれ、とても変な空気になる。

ユキ姉の隣に座っていた里香が、ユキ姉を揺する。

紫も揺すっている。

寝たのかと思って訊こうとしたが、先に橙が訊いた。

すると紫が動きを止める。里香が起きて、起きてと泣きながら言う。

通常ならふざけるであろう夢月達も黙りこくっていた。

嗚呼、分かった。

 

 

時計が止まったんだ。

私の家族の1人の時計が。

 

 

 

それ以来、咲夜のオルゴールが鳴る事はなかった。

彼女が「死にたくない」と泣き出したからなのか。